デブの視界

巨女のうち一人の供述

オシャレデブってどうやったらなれんの?

デブとして生きているとデブと視線衝突する確率が異様に高い。
お前よりは痩せてるわ!と勝ち誇った顔をして通り過ぎてゆくデブもいれば、そそくさと視線を外しでかい子ネズミのように避けてゆくデブもいる。

そうした中、たまに、やたらフリッフリの服を着て、頭に対し小さすぎる帽子をぎゅうぎゅうに被り、どうやったらその体型でそこまで服にこだわれるのか不思議になるオシャレデブがいる。

私はオシャレが怖い。
自分が可愛い服を着ても、デブがオシャレとかしてんじゃねえよと周囲からせせら笑われている気持ちにしかならない。

ユニクロとか近所のしょぼいデパートとかニッセンのスマイルランド(5Lクラスの巨大な服も売ってくれるがやたら高い通販)とかで適当に購入した地味な服ばかり着用している。

・フリルは一切ついてない
・色は寒色か中間色か無彩色
・柄は花柄など可愛いものはいらない
・胸強調する切り替えはいらない
・リボンとかのオシャレっぽい服禁止
・丈の短い服は腹が出るので選ばない
・伸びる素材はデブの救世主
・ジャージっぽくても最早気にしないデブだから

数々の条件をクリアしたデブ服を着ている。
それが当たり前だと思っていた。
デブは少なくともつつましく、でしゃばらず、肌など見せず、できればブルカなど着用の上、一般人様の闊歩するシャバの隅っこをようやく歩かせていただいているのだ。

しかしオシャレデブは違う。
小洒落た木こり帽(ノンオシャレデブなのでファッション小物をあらわす言葉を知らない)をななめに被りスカーフをひらめかせ堂々と一般人様とおしゃべりを楽しみスイーツをほおばるデブヒエラルキー上位のオシャレデブにはどうしたらなれるのだろうか。

きっと私ほど卑屈にならなくて済んだのだろう。
あと普通にオシャレな巨大服を売る店を発見することに成功したのだろう。
なれる気はしないが、堂々と生きているオシャレデブがたまに羨ましくなる。

残念ながら私には友達が一人もいないのでオシャレデブの生態について詳しく語ることはできない。
オシャレデブの人がいたら遊園地で自分だけ体重制限にかかり乗り物に乗れなかった時のかわし方を別に使う予定はないのですが教えてください。

虐待の結果としての肥満

私はほんの最近まで、自分が太っている理由は運動不足と体質のせいだと思っていた。

母は親なのだから普通の生活をしていて太るようなメニューは出さないだろうと信頼していたのだ。
現に、カレーライスを二杯三杯とお代わりをしないと「今日は元気がないね、何かあったの」と言われるので、カレー皿に山盛りのカレーを一食につき二杯三杯食べるのが普通だと思っていた。
更に毎日のように父に炭酸飲料や大量のお菓子を購入され、私は何の疑問も持たずに与えられるまま貪っていた。

それだけ毎日非常識な量を食わせた上で、母や父はこう言うのだ。

「運動しないから痩せないんだよ」

そう言って母は少ししか食べないし、父は醜く膨れ上がった腹を抱えて、減肥茶やスリムドカンなど更に何か足すことで痩せようとするが失敗するのだ。

本当に運動だけで痩せようとしたら一体一日何km走りこまねばならないのだろう。
一日の半分以上を睡眠と座学で過ごす学生には無理な話である。

私は親の言う通りどんなに運動しても無慈悲に増え続ける体重に絶望し、膨れた体を抱えて数々の暴言と暴力に晒されながら暗黒の青春時代を過ごすことになる。

幾ら何でもカロリーくらい自力で調べれば、あるいはもっと早くに自尊心破壊のループを抜け出せたかもしれない。
しかし、親の言うようにしても一向に痩せないことに絶望した私は、ダイエットに関する情報を忌避するようになってしまった。

「この本に書いてある方法で痩せられる人は普通の人だけで、私のような豚には無理なんだ」

今私は親元を離れ、消費カロリーと摂取カロリーを毎日計算し、三ヶ月ほどで7kgのダイエットに成功している。
特別な運動はせずとも、体重は落ちることをもっと早く知りたかった。

子どもの肥満は親による人生破壊級の虐待である。

私の死後これを読むであろう父へ

お前のことが死ぬほど嫌いだった。
お前のせいで、私は未だに全ての男性が怖くて仕方がない。

お前は暴漢だった。

酒を飲んでムカつく先輩をボコボコにしただの、
有名人を指差しあいつの骨を折ってやったことがあるだの、
上司をぶん殴っただの、
お前は何一つ偉くも何ともないのに、悪かった自慢をしてくるのが本当に嫌いで仕方なかった。
私も弟も母も、何度殴られたか分からない。

お前は中途半端に良い親ぶる奴だった。

ゲームは暴力的な表現があるとお前も殺人鬼になる気か!と激昂したたき割るくせに、自分はプロレスが大好きで、いつも私たちが見たいものを横取りした。
いつもいつも大学は自分の金で行けと言っておきながら、いざ私が自力で専門学校に通い、卒業する段になって、奴は言った。
「無理せず大学に行っても良かったんだぞ」
本当に殺してやろうかと思った。
その日、お前の寝室に行ってお前をコンクリートブロックでめちゃくちゃに殴り殺す夢を見た。


お前は私たちを馬鹿にし続けた。

努力が大事ともっともらしいことを言う割に、成果を上げないと馬鹿にした。
「十位って、どうせ十人しか参加してなかったんだろ」
私はお前に馬鹿にされない生き方しか選べなくなった。
お前が公務員を馬鹿にし続けたので、一番安定して生きて行く方法は、最初から選べなかった。
結果的に、自分にはあまり向いていない仕事を続けることになってしまった。

お前は私を閉じ込めようとした。

自分が都会に向かないからと、都会に出ようとする私に
「一人でお前がやっていけるわけがない」
「あんな都会に住める奴は頭がおかしい化け物だ」
「人間は皆お前をデブで醜くて気がきかないと馬鹿にしているぞ」
「絶対に失敗するぞ、そのうち頭を下げにくるハメになるぞ」
そう言って脅し続けた。
全部全部覚えているぞ。
私がお前の知らない分野に手を出そうものなら、途端にけなし始めたな。
お前は手元にずっと置いておける可愛い雛鳥が欲しかったんだろう。
残念お前の娘はぶくぶくと醜い豚になったよ。
誰からも嫌われる豚になったよ。

お前は母を殺し続けた。

私の覚えている母は、怯えているか、ぼーっとしているか、あなたたちが生き甲斐と、他人に全てを託す寄生虫だった。
お前は母を部屋に閉じ込め、木の板を打ち付け、何もご飯を与えなかった。
お前はたびたび母の仕事にケチをつけた。
お前は何度も何度も何度も何度も何度と何度も母を殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたりした。
何度包丁を持ってお前を殺そうかと思った。
「離婚してよ」
「あなたたちにはお父さんが必要なの」
(生活力がないから、専業主婦をやめないんだな)

(わたしはいけにえにされているのだな)

(このクソ女が自立できるだけの覚悟もなく流れで結婚して子供など産むから)

お前は私に許せと言った。
しかも許せない私が悪いと言った。
私はお前を絶対に許さないし妹がいなくなれば何をするか分からない。

全部全部覚えている。
毎晩のようにお前を夢の中で殺している。

金を払ってくれた、ただそれだけには感謝すべき。
そう思っていた時期もあったが、お前のせいで背負わされた重荷が辛すぎるのでそれも辞めた。
お前のことは二度と思い出したくないのに、全ての元凶はやはりお前だ。

母は今でも私と父が仲良くなれると思って取り持とうとする。
もう聞きたくないのに奴の話をしようとするし伝書鳩のような真似もする。

お前たちのせいでどれだけストレスを貯めているか。
両親ともさっさと死んでほしいとここまで心から願う人生があるのだろうか。

いいからさっさと死んでくれ。
お前が死んだ日、私は必ず満面の笑みを浮かべて祝福する。

デブの仕事

デブは仕事が出来ないと思われる。
自己管理がまるでなってない結果デブになっているからだ。

私は幸い職能には不自由していないので、スキルが積み上がっていくごとに苦労をすることは少なくなってきた。

しかし、デブであるがために、いらぬ苦労を背負うことは多い。

「視界に入ってくるなよ暑苦しい」
「デブだからのろまなんだよ」
「はやく辞めてくれないかな」

何も言われていなくても、そう思われているのではないかという恐怖感がどうしても拭いきれない。
どんなに褒められても、活躍しても、埋めようのない劣等感が常に存在している。

どんなに相手が好意的に接してくれても、いつも居心地の悪さを感じている。
優しい言葉は容易く鉛玉になる。

やがて私は嫌われているという確信に至り、仕事すらろくに手につかなくなってしまう。

結果、私は同じ職場に長く居続けることができない。

デブであるデメリットを帳消しにするため、なんでもかんでも貪欲にスキルを身につけて、気付けば私はただの器用貧乏になっていた。

たまに同世代と話をすると、悔しくて泣きそうになる。
何故そんなに不安を持たずに生きてられるのか。
何故そんなに勉強せずにいられるのか。

私が勉強している時間、彼女らは楽しい時間を過ごし、何の気負いもなくお洒落を楽しんでいるのだろう。

妬ましくてしょうがない。苦しい、つらい。

私をこの世界に産み落とした存在が憎い。

何度も何度も生まれたくなかったと自分も他人も呪いながら生きている。
いつか理性の糸が切れたら、その時一番幸せそうな人を不幸のどん底に落としに行くのだろうか。

デブは自業自得だという。
自分を守るためだけにデブであることを選ばざるを得なかった場合は、じゃあどうしたら良いのだろうか。

もう分からない。死んでしまいたい。
数少ない私を慕ってくれる友人だけが、私を繋ぎとめている。

消極的デブの仕事は、ただただ苦しみ続けることなんだろう。

異性が怖い

私は物心つかない頃、父方の実家で、従兄弟達から裸になれと言われた。
腕っ節では到底叶わず、何かおかしいとは思ったが、従うしかなかった。

色々な所をべたべたと触られた。
最初は何をされているのか何も分からなかった。
ただただ従兄弟どもの興味が失せるのをじっと待っていた。

幸い処女喪失することなく、従兄弟達は部屋を出て行った。
その後、親戚のおじさんが様子を見に来た。

彼は何を思ったろうか。
自分の息子たちが出て行った後の部屋に取り残された、年端もいかない女の子が裸にされて呆然と横たわっているのを見て。

彼は私を無視した。
なかったことにした。

その時は見捨てられたということも気づけなかった。
多分自分を守るのに必死だったのだ。


後になってとても嫌なことをされたのだと理解した私は、父方の実家からの電話を一切取らなくなった。
とにかく腹の底で毛虫が這いずりのたうちまわるような嫌悪感があった。

親には言えなかった。
従兄弟どもの欲望のままにいじられた私は汚いもののように思えた。

あれから私はずっと男が怖い。
怖いし、憎んでいる。

奴らは今、のうのうと幸せに暮らしている。
親戚の集まりでも、平然と私と顔を合わせている。

私の体格は奴らに異常を訴え続けている。
お前らのせいで、私は男に性的な視線で見られることに耐えられない。
お前らのせいで、着飾ることに恐怖すら覚えるようになった。

奴らは物言わぬ私が何を考えているか、気づくだろうか。
それとも、もう忘れているのだろうか。
ゴミ捨て場にあった雨ざらしのエロ本をめくった時と同列の、幼く淫らな思い出になっているのだろうか。

私はいつも、奴らをどうやってぶち壊してやろうかと、舌なめずりを堪えながら眺めている。

ヒエラルキーの最下層であるデブに怖いものはない。
社会的地位などないに等しいからだ。

お前らが忘れても、私は死ぬまで覚えている。
いつか絶対に、全部ぶち壊してやる。

私はデブです

幼稚園の頃からぶくぶくと醜く太りだし、それからずっとデブの道をひた走ってきた。

 

それまでは普通体型だったにもかかわらず、増えていく体重を止めようとは思わなかった。

道行く人も家族も親戚もクラスメイトも気弱ないじめられっこも、デブには遠慮無く罵倒してくる。

心療内科の医者ですら、よくそんなに太って平気でいられるねと罵ってくる。

 

私は言い返しもせず、殴りもせず、ただひたすらに傷つき耐えていた。

デブが自己管理すらできないゴミ未満の存在であると十分に理解していたからだ。

デブがデブであるということに触れない、心優しい人達の存在すら負担になった。

心の中でどれだけ私をデブのくせにと見下しているか分かったものではない。

勝手な傷は無数に増えていき、やがてかさぶたのないところなど一箇所もなくなってしまった。

 

高校の時は2桁だった体重が、社会人になり、あっという間に3桁を突破した。

店に置いてある一番大きいサイズのスーツすら着る事ができない。

必然的に通販へ逃げ込み、頼むのは4L、5Lサイズ。

自分の体型が異常であることがどんどん当たり前になっていた。

 

ある日、本屋で老人とすれ違いざまに、ブタが、と罵られた。

眼前が真っ赤になった。

 

帰宅した後、思い切り泣いた。

泣きすぎてただでさえアンパンのように膨らんだ醜悪な顔がより醜く腫れ上がった。

 

このままだとストレスで死んでしまう。

人間は悪意しか持っていない。

相手にデブという欠点があれば人は容赦なく刺してくる。

デブは人間のヒエラルキーの最低辺に存在している。

 

意を決し、ようやく私はダイエットに手を出した。

よく聞く食べたものを全て記録するというやつだ。

 

なんと私は半年ほどかけて20kgの減量に成功する。

生まれて初めて健康診断で褒められたのが嬉しかった。

 

 

しかし、帰省と同時に、全く痩せたいと思わなくなってしまった。

 

 

また元の暴飲暴食が始まった。

気づいたらせっかく減らした20kgも元に戻っていた。

あんなに順調だったのに。

豚はぶくぶくと肥え太り、ついには元の体重を超えてしまった。

 

何故私は痩せられないのか。

幾つか理由は思い当たるのだが、この際全て文章にしようと思った。

 

・親戚からの性的虐待

・父からの性的虐待の記憶

・DVを受ける母

・マザコンの祖父と曾祖母に虐げられる祖母の愚痴

・父による日常的な女性への性的発言

・可愛い服を着ると親からからかわれる

・他人からの性的暴行、脅迫

・強姦描写のある作品、エロ本、エロビデオが昔からそこらに転がっていた

・幼い頃に見た出産映像

 

 

 

痩せる努力の前に、これら全て吐き出す必要があるように思う。

ずっと無理やり考えないようにしていたことばかりだ。

 

対人恐怖症の私は、セラピーなど恐ろしくて通えない。

一人で勝手に吐き出して、冷静になるしかない。

 

数少ない友人の信頼を裏切らないために。