デブの視界

巨女のうち一人の供述

私の死後これを読むであろう父へ

お前のことが死ぬほど嫌いだった。
お前のせいで、私は未だに全ての男性が怖くて仕方がない。

お前は暴漢だった。

酒を飲んでムカつく先輩をボコボコにしただの、
有名人を指差しあいつの骨を折ってやったことがあるだの、
上司をぶん殴っただの、
お前は何一つ偉くも何ともないのに、悪かった自慢をしてくるのが本当に嫌いで仕方なかった。
私も弟も母も、何度殴られたか分からない。

お前は中途半端に良い親ぶる奴だった。

ゲームは暴力的な表現があるとお前も殺人鬼になる気か!と激昂したたき割るくせに、自分はプロレスが大好きで、いつも私たちが見たいものを横取りした。
いつもいつも大学は自分の金で行けと言っておきながら、いざ私が自力で専門学校に通い、卒業する段になって、奴は言った。
「無理せず大学に行っても良かったんだぞ」
本当に殺してやろうかと思った。
その日、お前の寝室に行ってお前をコンクリートブロックでめちゃくちゃに殴り殺す夢を見た。


お前は私たちを馬鹿にし続けた。

努力が大事ともっともらしいことを言う割に、成果を上げないと馬鹿にした。
「十位って、どうせ十人しか参加してなかったんだろ」
私はお前に馬鹿にされない生き方しか選べなくなった。
お前が公務員を馬鹿にし続けたので、一番安定して生きて行く方法は、最初から選べなかった。
結果的に、自分にはあまり向いていない仕事を続けることになってしまった。

お前は私を閉じ込めようとした。

自分が都会に向かないからと、都会に出ようとする私に
「一人でお前がやっていけるわけがない」
「あんな都会に住める奴は頭がおかしい化け物だ」
「人間は皆お前をデブで醜くて気がきかないと馬鹿にしているぞ」
「絶対に失敗するぞ、そのうち頭を下げにくるハメになるぞ」
そう言って脅し続けた。
全部全部覚えているぞ。
私がお前の知らない分野に手を出そうものなら、途端にけなし始めたな。
お前は手元にずっと置いておける可愛い雛鳥が欲しかったんだろう。
残念お前の娘はぶくぶくと醜い豚になったよ。
誰からも嫌われる豚になったよ。

お前は母を殺し続けた。

私の覚えている母は、怯えているか、ぼーっとしているか、あなたたちが生き甲斐と、他人に全てを託す寄生虫だった。
お前は母を部屋に閉じ込め、木の板を打ち付け、何もご飯を与えなかった。
お前はたびたび母の仕事にケチをつけた。
お前は何度も何度も何度も何度も何度と何度も母を殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり殴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり蹴ったり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたり突き飛ばしたりした。
何度包丁を持ってお前を殺そうかと思った。
「離婚してよ」
「あなたたちにはお父さんが必要なの」
(生活力がないから、専業主婦をやめないんだな)

(わたしはいけにえにされているのだな)

(このクソ女が自立できるだけの覚悟もなく流れで結婚して子供など産むから)

お前は私に許せと言った。
しかも許せない私が悪いと言った。
私はお前を絶対に許さないし妹がいなくなれば何をするか分からない。

全部全部覚えている。
毎晩のようにお前を夢の中で殺している。

金を払ってくれた、ただそれだけには感謝すべき。
そう思っていた時期もあったが、お前のせいで背負わされた重荷が辛すぎるのでそれも辞めた。
お前のことは二度と思い出したくないのに、全ての元凶はやはりお前だ。

母は今でも私と父が仲良くなれると思って取り持とうとする。
もう聞きたくないのに奴の話をしようとするし伝書鳩のような真似もする。

お前たちのせいでどれだけストレスを貯めているか。
両親ともさっさと死んでほしいとここまで心から願う人生があるのだろうか。

いいからさっさと死んでくれ。
お前が死んだ日、私は必ず満面の笑みを浮かべて祝福する。